中国広州市にあるリトルアフリカ、そこにやってくる彼らは実際どこからやってくるのかデータを集めて検証した
ことのはじまり
「その日暮らしの人類学」という本で、タンザニアの人の暮らしぶりを書いた本がある。
この本ではタンザニアから衣料品や家電の買い付けのために香港から中国本土に渡り買い付けに行くということらしい。
本文から抜粋すると、
なかでも広東省広州市には、サブ・サハラ以南のアフリカ系交易人が多く集まることから「チョコレート城」「リトル・アフリカ」「広州ハーレム」などと呼ばれる卸売商店街が形成されている。
中略
アフリカ系交易人が集まる場所は主に次の二つの区域であり、ここまで辿り着ければ、現地のアフリカ系住民や交易仲間に助けてもらうことができる。一つは白雲区の三元里周辺であり、もう一つは越秀区の小北路周辺である。
というように、広州市にはリトルアフリカがあるらしい。これは面白そうだということで2018年の3月に実際に上述の本に書かれている広州市の小北路周辺行ってみた。
「その日暮らし」の人類学 もう一つの資本主義経済
「その日暮らし」の人類学 もう一つの資本主義経済 (光文社新書)
- 作者:小川 さやか
- 発売日: 2016/07/14
- メディア: 新書
最近、「さいはての中国」という中国のあまりニュースに流れない変わったところを取材している本が発売され、これにも広州のリトルアフリカが紹介されていている。これも買って読んでいて最初に埼玉の西川口が紹介されていておもしろい。
さいはての中国
- 作者:峰俊, 安田
- 発売日: 2018/10/03
- メディア: 新書
リトルアフリカの実際の様子
香港から国境を渡った深センから広州へ高速鉄道に乗車すると、確かに肌の黒い人達がチラホラいて、「ああ本に書かれていたことは本当なんだなぁ」と期待が高まった。
小北路周辺というのは、地下鉄小北(シャオベイ)駅付近のようで、地下鉄の駅を降りると中国系の人々の姿がめっきり減り、黒人・アラブ人の姿が目立つようになる。
ウイグルの人がやっているレストランがたくさんあり、同じイスラム教徒のアフリカ・アラブ系の人たちが食事をとっていた。 その中の1件に入ってみると、中国籍の中央アジアっぽい顔立ちの夫婦が店を切り盛りしていた。メニューに写真があったので多分ラグメンと思われるものを食べた。(ラグメンってこんな食べ物だったような気がするが書いていて自信がなくなってきた)
普段中国で見るのは漢民族ばかりなので中国は多民族国家なのだな実感したし、切り盛りしている奥さんは美人だった。
商業ビルの中にはモスクもありイスラム教に対応している。(お祈りをしている人にお祈り前に撮影の許可はとってある。つたない英語とジェスチャーなので若干通じたかどうか怪しいが)
配送可能な国々を表示している看板には、日本人には馴染みの薄い国旗が目立つ
アフリカっぽい服も実は中国で作られ輸出されていることがわかる
その他高そうな偽物の時計や、偽物のiPhoneXが売られていた。
特に偽物のiPhoneなんて隣の世界一の電気街がある深センではキワモノゾーンで売っており、中国でも本物のiPhoneを使っている人が多くて、 誰が買うんだと思っていたらどうやらアフリカで売ろうとしているのかもしれない。
データを取得してタンザニアから来る人達がいるのか検証
リトルアフリカを歩いている様々な国の人っぽい人たちが実際どこから来てどこに向かっているのか、Instagramのデータを集めて集計して、 先の「その日暮らしの人類学」にかかれていたとおりタンザニアからやってくる人たちがいるのかどうか検証した。
データの取得方法
Instagramには投稿する写真に場所データを付けて投稿することができる。
また中国本土ではInstagramは、YoutubeやTwitter、Facebookと同様に規制がかかっておりアクセスできないので中国の人はあまり利用していない。 それに地元の人から見ると何でもない駅でも、遠い異国買い付けに来た人たちにとっては旅の目的地なのだ。そりゃインスタにも写真を上げるだろう。
先述した通りリトルアフリカの一つがある小米駅付近であり、小米駅を場所データとして投稿している画像をまず集めることにした。
ここで小米駅の英語表記である「Xiaobei Station」をInstagramで検索すると下記のようなページを見ることができる。
- このページの画像データからユーザの情報を抜き出し、365人分のInstagramのユーザ名のリストを取得した
- このユーザ名のリストから、一人ひとりのユーザの投稿している画像データを一人あたり最大150件取得し、その中から位置情報が含まれているものを 20910件抽出した
生のデータは下記のリンクの「original」のシートに記載されている
pythongram_sample - Google スプレッドシート
このデータを元にGoogle Data Studioにプロットするとこのような世界地図にプロットしたものと、棒グラフで図示した。 (中国と香港は除外することでデータを見やすくしてある)
データ数の多い国別にランキングにしてみるとこの様になった。
順位 | 国 | データ数 |
---|---|---|
1 | マレーシア | 732 |
2 | タンザニア | 673 |
3 | ロシア | 590 |
4 | アメリカ | 552 |
5 | 日本 | 448 |
6 | タイ | 398 |
7 | フランス | 367 |
8 | イタリア | 294 |
9 | トルコ | 289 |
10 | オーストラリア | 279 |
考察
データ数が圧倒的に多かった中国や香港と同様にマレーシアが1位なのはマレーシア経由で広州へ来ている可能性が考えられる。
その次にタンザニアがあり、検証したかった「その日暮らしの人類学」にかかれていたとおりタンザニアからやってくる人たちがいるのかどうかということとに関しては検証できただろう。
また世界地図にプロットしてあるデータを見る限りアラブ圏、アフリカ以外の世界中から広州のリトルアフリカにやってきているのがわかる。 ロシアやアメリカ、そして日本が続くのも気になるところだ。Instagramのデータなのでも観光目的できた場合に撮ったデータの場合も大いにある。
そこでもう少し検証を進めて、出身国をある程度推測した場合データがどうなるか調べてみることにした。
出身国を推定
1ユーザあたり1つの国で1枚データをGoogle Mapに表示
小米の場所データを付随してInstagramにアップしていたユーザーは365人、1ユーザが1つの国で投稿しているデータを1つだけ取り出してみた。 つまりAさんが、アメリカで投稿したデータが2つ、日本で投稿したデータが3つあった場合、アメリカで1つ、日本で1つだけ抽出するということだ。
その1ユーザが1つの国で投稿しているデータを一つだけ取り出した抽出したデータは1714件となった。 生のデータは下記のリンクの「国ごと」のシートに記載されている。
pythongram_sample - Google スプレッドシート
Googleマップのマイマップ機能を使ってその1714件プロットするとより具体的に世界中に散ってることが感覚的にわかる。 (マップ上のピンをクリックして、URLのリンクを開くとその対象のInstagramのページを見ることができるようにしてある)
各ユーザの居住国を推定してグラフ表示
各ユーザの国ごとの投稿したデータの数を比較し一番投稿が多い国は住んでいるところのデータであろうと仮定した。要は 一番投稿が多い国 = 居住国 とし、小北駅にの位置情報データ月の画像をInstagramに投稿していた365人分のユーザの出身国を集計した。
生のデータは下記のリンクの「推定出身国」のシートに記載されている。
pythongram_sample - Google スプレッドシート
このデータも、Google Data Studioにプロットした(中国と香港は除外することでデータを見やすくしてある)
データ数の多い国別にランキングにしてみるとこの様になった。
順位 | 国 | データ数 |
---|---|---|
1 | タンザニア | 28 |
2 | マレーシア | 18 |
3 | タイ | 15 |
4 | ロシア | 12 |
5 | アメリカ | 11 |
6 | 日本 | 10 |
7 | ケニア | 8 |
7 | マカオ | 8 |
7 | フランス | 8 |
10 | 韓国 | 7 |
考察
圧倒的にタンザニアが多い、続いてマレーシア、タイと続く。 おそらくロシアからも中国南部の広州まで買い付けに来ていることがわかる、ロシアの場合は陸路で北の方で仕入れをしてそうだが、この辺も追って調べてみたい。
7位にケニアが登場していたり、プロットされて世界地図を見る限りサハラ砂漠あたりの以外のアフリカの各国々から広州に買い付けに来ているのが伺える。
出身国を各ユーザの投稿数の多い国と仮定した方法で、予想通りタンザニアが1位になったことは満足行く結果となった。
終わりに
香港に行った際には、重慶大厦という安宿がたくさん入ったビルで良く宿泊する。ヨーロッパ系、アジア系、アフリカ系の様々な人種の人たちが旅行や商売のためにやってくる。 初めてそのビルを訪れた2009年から特に商売できた人達が一体どこから来てどこに行くのかずっと気になっていた。
Webやテレビ、書籍で情報だけは知ることはでき、アフリカ・アラブ系の人たちが向かうらしいという広州に実際に行くことができた。 そして現地の肌感覚を掴んだ後に、今度はまたWebの世界を使って広州にやってきた人たちがどこから来ているのか調査することができた。
余談だが、これを読んで重慶大厦に泊まってみたいと思った人がいるかも知れないが自己責任でお願いしたい。2017年に泊まった際には、共同のトイレの取っ手が内側から外れていて23時頃に「Help me!!」と何度も叫ぶ羽目になった。人生で本当にヘルプミーなんて言うことになるとは。といった場所である。
「小北駅の位置情報付きでInstrgramに画像を上げているユーザの、他の位置情報付きの情報を使って調査する」という発想自体、現地で自撮りをしている黒人を見なければ得られなかった。Webを含むメディア -> 実地 -> Web の循環が、調査の仕方として面白く。大げさに言えば人の知を広げることになるんだなとしみじみ思う。
またこのInstrgramの位置情報を使って調査する手法は、それぞれの国や公的な機関が出した統計データよりも生き生きとしたナマのデータを取得することができて、社会学とか経済学の研究やフィールドワークに使えないかな? こういう方法があるよや使ってみたい人がいたら @kon_yu まで連絡ください。
どうやって画像情報を収集したのかと言うようなテクニカルな情報はこちら